スタッフのつぶやき

2020.02.20

あかんちょうのつぶやき「柳に風」①

無用の用

 中国の思想家・荘子に「無用の用」という話がある。樗(おうち)と呼ばれる巨木があり、曲がりくねって節くれだっているため使い物にならないと言われていたが、荘子は「何故、その大木を広野の真ん中に植えて、大きな木陰の下、のびのびと寝そべって豊かな生を楽しまないのか。」と答えた。一見何の役にも立たないようなものこそが、実は大切な役割を果たしているということである。

 コンサートホールと能楽堂という文化施設は、銀行や病院、郵便局、スーパー、飲食店などに比べると、日常の市民生活の場において、どうしても必要なものではない。しかし、私たち人間は、人生における折々で苦悩し、悲嘆し、歓喜する。ベートーヴェンの音楽は苦しみのどん底から光が見え、世阿弥の能は死者の悲しみが浄化されていく。人間の情感を余すところなく表現する芸術に触れた時、私たちは身が震えるほどの感動を覚えることがある。それは、きっと生きる力を与えてくれ、かけがえのない時間となるだろう。

 令和の新しい時代、開館22年目を迎えたコンサートホール・能楽堂は、一人でも多くの方に「無用の用」の感動を実感していただきたい。

(あかんちょう)