スタッフのつぶやき
2020.04.04
あかんちょうのつぶやき「柳に風」④
3人のレンガ職人
イソップ童話に「3人のレンガ職人」という話がある。
ある旅人が田舎町を歩いていると、3人の男たちが道端でレンガを積んでいた。旅人が3人に「ここで何をしているのですか?」と尋ねると、1人目は「何って、見ればわかるだろう。レンガを積んでいるんだよ。毎日、これの繰り返しさ。」と不満げに答えた。2人目は「大きな壁を作っているんだよ。大変だけど、おかげでなんとか家族を養っていけるのさ。」という返事。3人目は「歴史に残る大きな教会を作っているんだ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うことができるんだよ。」と、そこに訪れる人々の幸せまで考えていた。3人は皆、「レンガを積んでいる」という仕事は同じなのだ。さて、あなたの仕事ぶりは3人のうちどのレンガ職人であろうか。
毎年4月1日、職場に新人を迎えると、必ずこの話を思い出す。どんな仕事や職場でも、いざ目の前の業務に取り掛かると大きな目的を忘れてしまいがちだ。今、世界は先の見えない大変な状況だが、コンサートホール・能楽堂は、いつもお客様に安心して喜んでいただけるおもてなしを考え、3人目のレンガ職人としてスタッフ一同仕事をしていきたいと思う。
(あかんちょう)
2020.03.17
あかんちょうのつぶやき「柳に風」③
「待つ」ということ
新型コロナウイルスの影響で大変な状況になっている。医療機関の混乱はもとより、スポーツや文化等のイベント中止、小中高校の臨時休校、今週に入り世界各国における感染症拡大を懸念した封鎖のニュースまで入ってきた。経済的な打撃も大きい。
豊田市コンサートホール・能楽堂ではこの3月中の主催公演は全て中止となり、施設を利用されるお客様もほとんどが催しを中止にされた。人が集まる場所の代表のようなコンサートホール会場としては、やむを得ないことであり、一刻も早い終息を祈るのみである。
考えてみれば、世界のグローバル化によって人の移動は多くなり、情報通信のスピードアップ、便利で快適な生活のために経済を最優先にした環境破壊など、自然との共存を無視してきたことに、何か地球が叫んでいるようにも思えてしまう。
身近なところで、スマホ、コンビニ、カードなど、スピード処理が優先される便利な現代においては、待たなくてもよくなり、「待つ」ということができなくなってしまった。しかし、今のこの状況は、感染症拡大が終息するのをじっと「待つ」しかない。窓の外では、何も知らないかのように穏やかな春の日差しに鳥のさえずりという自然の音楽。土からは春の花が、ゆっくり大きく背伸びをし始めた。
(あかんちょう)
2020.03.01
あかんちょうのつぶやき「柳に風」②
恐ろしい講座
先日、作曲家でピアニストの加藤昌則さんを講師に迎えて、新感覚のレクチャー「大人のためのクラシック」全6回シリーズという講座が始まった。初回は導入編で、代表的なクラシック作曲家を数人取り上げ、その特徴をユーモアたっぷりに紹介した。この講座、なんと恐ろしいことに館長が登場するコーナーが設けられており、しかも何をやるのか知らされず、リハーサルもない。
初回は、ドヴォルザークの交響曲「新世界」におけるシンバル奏者の大変さを体験してみなさいという内容だ。「新世界」は全4楽章のうちシンバル奏者が活躍する場面は、第4楽章の最初から2分ほどのところで、一発ジャーンと打つだけなのだ。それ以外はずっと座っているというある意味とても大変な役割である。打つ箇所を間違えたり打ち忘れたら、ハイそれで終わり。これを館長に体験してもらおうという講師の悪だくみだ。案の定思いっきり打ち遅れ、加藤さんは「ハイ、失敗しましたねー」とニッコリ(笑)。終演後は、お客様がこちらを見て妙にニタニタして帰って行かれるのにはまいった。
このシリーズの講座、これからも毎回何かやらされるらしいが、実に恐ろしい講座である。
(あかんちょう)
2020.02.20
あかんちょうのつぶやき「柳に風」①
無用の用
中国の思想家・荘子に「無用の用」という話がある。樗(おうち)と呼ばれる巨木があり、曲がりくねって節くれだっているため使い物にならないと言われていたが、荘子は「何故、その大木を広野の真ん中に植えて、大きな木陰の下、のびのびと寝そべって豊かな生を楽しまないのか。」と答えた。一見何の役にも立たないようなものこそが、実は大切な役割を果たしているということである。
コンサートホールと能楽堂という文化施設は、銀行や病院、郵便局、スーパー、飲食店などに比べると、日常の市民生活の場において、どうしても必要なものではない。しかし、私たち人間は、人生における折々で苦悩し、悲嘆し、歓喜する。ベートーヴェンの音楽は苦しみのどん底から光が見え、世阿弥の能は死者の悲しみが浄化されていく。人間の情感を余すところなく表現する芸術に触れた時、私たちは身が震えるほどの感動を覚えることがある。それは、きっと生きる力を与えてくれ、かけがえのない時間となるだろう。
令和の新しい時代、開館22年目を迎えたコンサートホール・能楽堂は、一人でも多くの方に「無用の用」の感動を実感していただきたい。
(あかんちょう)